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★傷を見せなくなった日の話

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これはちょっとした番外編的な。
「絶対に傷が見えないように意地でも胸元が隠れる洋服しか着ない」というベースが固まった時期のお話です。
★マークです。気を付けてね。(マークの意味はこのブログの手引きを見てね)
※いつも通り、このエピソードはあくまでも私個人の話で、みんながこう思う、こう感じるのだとは決して思わないでくださいね。



私がまだ学生で、だけど少しお姉さんになったころ、好きな先生が居ました。
と、言っても、本格的(?)な恋愛感情ではなくて、自分が知らないことを教えてくれる存在への尊敬と大人の男性への憧れ。なんかそういう時期ってありますよね。
同じような思いの友達ときゃあきゃあ言う感じ。
ハンサムでスラリとして物腰の柔らかいその人は、女子からも男子からも人気があって、たぶん先生達からも好かれていたと思います。

どういうきっかけだったか忘れたけど、その先生と2人きりになったときに、突然こんな風に話しかけられました。


「えふさんも、長く生きられないの?」


いきなりこんなことを言うなんて不躾だな。と思うよりもまず「えふさんも」?
「も」って何だ。


「前に襟元から見えちゃった。それ心臓の手術した傷でしょ。
 僕の子どももね、2人いるんだけど下の子ね。心臓病なんだ。それにダウン症もあるから、長く生きられないんだって。」

私の手術の跡は、鎖骨のすぐ下から始まっています。Vネックのような襟ぐりの広い洋服を着ていなくても、少し動いて首回りに隙間が出来たら簡単に見えてしまいます。
当時はそんなに傷を見られることに過敏ではなかったから、シャツのボタンも上まで閉めないし、普通に見えていたとしても不思議ではありませんでした。



先天性心疾患がそうであったように、昔はダウン症も成人できない病気だったけど
今はイコール大人になれないわけではない。
でも、親なんだからそんなこと分かっているだろうし、赤ちゃんの時に受ける心臓の手術なんていっぱい種類があって、自分が受けたものと同じとは限らない。
「長く生きる」がどの程度を指しているのかは分からなかったけど、たぶん私の方が先生のお子さんより長く生きるんだろうなと思った。でもそれを伝えるのは違う。なんとなく話を合わせるのも絶対に違う。それに、たぶん先生はそれを分かったうえで話しかけてきた。

「えふさんも、長く生きられないの?」
これに、なんて答えたらいいんだろう。
とにかく私はびっくりした空気を出さないように、いつも通りの温度でいることだけを全うしました。

子どもの病気が分かったときに奥さんと一緒に沢山泣いたこととか、ふたりともとっても愛していることとか、普段以上に先生っぽい口調で話してくれて
いかにも先生みたい(小さい子に話すみたい)に、ご両親に親孝行してあげてねとか、お父さんもお母さんも大人になってもすごく心配なはずだよとかいうことを話してくれて
だんだんとくだらない雑談になって、私がその質問に明確に答えないままその話は終わりました。

先生は、私から何か聞きたかったわけでも、私に特別何か伝えたかったわけでもなかったと思います。
ただ言いたかった。そんな印象を受けました。
それが嬉しかったわけでも、嫌だったわけでもないし、例え私が本当に長く生きられなかったとしても、なんでわざわざそんなこと言うんだろうとも思わなかったと思います。

むしろ私は、今考えたらこんなのはすごくおこがましいことなんだけど
もし先生の子どもの具合が悪くなった時に私が元気だったら、先生は悲しくなるんじゃないかと思った。それは、私が自分より元気に大人になった心臓手術経験者を見ると「なんで私は違うのか」と悲しくなることがあったから。

だけどそれは私の話で、みんなもそう思うかもしれないなんていうのは傲慢で
仮にそう思ったとしても、それは相手の勝手であって、私のせいではない。
そうなんだけど、これは今の自分だから言える言葉で、その時はそんな風には思えなかったんですよね。

だからって何か気の利いたことが言えるわけでもなく。





大人になればみんな色々な経験をするから、当事者じゃなくてもこれが心臓の手術の傷だって分かる場合がある。
私が何も話さなくても、心臓の手術をしたことがあると分かられてしまう。
それは、無闇に説明を迫られる手間が省けるから良いことだと思っていましたが、その時だけは無性に嫌だと感じました。
(先生にバレたことが嫌だったわけではなくて、何なら先生でよかったと思っていたくらいです)
一方的に「かわいそうだ」と思われたり、「病を乗り越えて頑張ってる子」だと思われたり、何か勝手なカテゴリーに入れられていたことがこれまでだってあって、それらの小さな違和感は見て見ぬふりしてこられたけど、この、今感じている違和感とも戸惑いとも言えない気持ちは、無視することが出来ませんでした。


私はそれ以降、絶対に傷が見えないように今まで以上に気を使うようになりました。
良い方向だろうが悪い方向だろうが、自分の知らないところで、これによって相手の感情が動くことが嫌で、それを感じてしまうことが嫌だったから。

一言でまとめると、きっと、自意識が過剰なんです。


だけど恥ずかしながら未だに、当時の自分を「お前は自意識過剰だなぁ」とからっと笑ってあげることは出来ません。まだまだ発展途上。



こじらせたり、ひねたり絡まったりしていた、学生時代の一つのエピソードでした。


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