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どちらの弁にしますか

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心臓弁の人工弁への置換は、生体弁機械弁の2種類から選択します。
それぞれの特性は過去の記事にも書いたし、「それはいったい何だ?」という方は、基本的な情報がこちらのHPで学べます↓
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph69.html

現在進行形で弁置換を控え、悩まれている方。
私は生体弁を選択しましたが、機械弁が良くないと思っているわけではありません。生体弁を積極的にお勧めしたいわけでもありません。
いわゆる弁の特徴はありますが、生活環境や年齢・性別によってメリット、デメリットの細かいとらえ方は異なると思います。医師からの説明も全ての心疾患の方に当てはまるものばかりではありません。
ただ、何を考えてどのように悩んできたのか『あくまでも私がどうして生体弁にしたのか』の記事です。そこだけご理解ください。


弁の置換手術をすると言われたときは、当たり前に機械弁が入るものだと思っていました。
生体弁は高齢の方に適応されるものという認識しかなく、私の選択肢に入らないだろうなと。
ところが、生体弁と機械弁の2種類の弁から選んでください。と言われました。
困った。
選ばせてくれるのはありがたいけど、どうやって選べばいいんだろう。まずはネットや本で勉強しました。

◇機械弁のメリット
耐久性に優れるので再手術の可能性が低い(合併症さえ起きなければもう手術しなくていいかも)
◇デメリット
・血液が弁にこびりついて固まってしまう(血栓を作る)可能性があるため、ワーファリンを一生服用しなければならない
妊娠、出産不可能
・生体弁に比べて合併症や感染症のリスクは高い
・機械弁が開閉する際にカチカチ音が聞こえる

◇生体弁のメリット
・私は現在絶対妊娠禁止(心機能が弱りすぎて耐えられないから)だけど、妊娠や出産が可能になるかもしれない
・術後安定したら(一般的には3カ月くらい)ワーファリンの服用が無くなる⇒納豆食べても大丈夫
合併症のリスクが低い
◇デメリット
劣化が早く再手術の必要がある(一般的には10~15年)


困った。全然決められない。
よくできてるわ。悪い意味で。
どっちも嫌だ。

何科の先生と話しても一番に聞かれるのは「出産の希望は?」でした。
機械弁であれば一生ワーファリンの服用が必要になります。ワーファリンは胎児への影響が大きく奇形が発生してしまうため、妊娠は禁忌とされています。
年齢を考えると、再手術の必要が無い機械弁を薦めるのが一般的ですが、最近は手術のリスクが下がり、出産を希望する女性など若くても生体弁を選択する人も増えているそうです。 (近年では(計画妊娠の準備段階から)ワーファリンを別の抗血液凝固剤に変える対応をとってくれる場合もあって、ワーファリン=100%妊娠が禁忌ということでもなくなってきているのかもしれませんが)

私は10代の時から医師に「貴方の心臓は妊娠に耐えられない」と聞いていたので、子どもを望むことは諦めていました。だからこそ「本当に子どもが欲しいと思わないか」と言われると、言葉に詰まります。
いまならパートナーも居ないし、最初から無理だったんだと諦めもつく。


担当医は先天性心疾患で40代(開胸手術3回)。結婚も子どもを作ることも考えていなかったそうで、いまの私の心情をすごく察してくれました。いつまで生きられる分からないから。それでも先生にはいま家庭があって、子どもがいます。
「僕は男だから出産は経験できないけど、子どもが居なかったらもっと生きることに前向きじゃなかった。だけど今は何としても生きたいと思えるよ。うっかり結婚したいと思う人に出会ってしまったんだよ。貴方だってこの先、本当に何があるか分からないから。病気を理由に可能性を諦めないでもらいたい。」

手術適応の話をされた時、先生の言葉を借りると私は生きることに前向きではなくて
これ以上治療を受ける意味があるのかと思い、手術自体を断るつもりでいました。

執刀してくれる外科の先生は

「確かに再手術はそれだけリスクは上がります。でも、僕が執刀した中で3回も4回も手術してる人はいるしね。(何年か先の)再手術の時は、今予想するよりももっとリスクは下がってると思うんです。医療の世界は日進月歩だから、もっと良い生体弁が出来てるかもしれないし、再生医療も研究されたりね。」

「手術した結果、身体の負担が軽減して「やっぱり子どもが欲しい」と思う患者さんを何人も見てきた。でも機械弁を入れた後にすぐ生体弁に取り換えるなんて出来ないし…
手術の前日、当日の朝でもいいから。ぎりぎりまで対応します。きちんと勉強して、選んで。」

耐久性という点以外、今回の手術においては心機能の改善度もリスクもどちらの弁でも大差はないから、自分が納得できる選択をしてねってことでした。


やっぱりどこまで考えても、子どもが生みたいかどうかは最後まで分かりませんでした。

だけど、医者という立場の人から『可能性』の話をされることが私にとっては衝撃でした。
極端な言い方をすれば私の病院というものへの感覚は25年前の手術で止まっているわけですから、あれはダメ。これもダメ。という制限をするのがお医者さんだと思ってました。
だけどいろんな先生が、『今は出来ないけど何年かしたら出来る方法があるかもしれないから、それが試せるようにその時まで生きてることが大事』という話をするんです。
とにかく何でもいいから長く生かすということよりも、患者本人がどんな生活を望んでいるかを優先する。
医療現場は変わっていってるんだなぁと思うと同時に、漠然と自分自身のQOLの向上について考え始めました。

私は最初から子どもは欲しいと思ったことないって思い込むことで気持ちを保ってきたから、今更「妊娠できるかも」って言われても対応できない。
でも初めて自分が「妊娠できない」と言われた時の痛さや悲しさは覚えていて
もしかしたらこの先、何かのきっかけでまた子どもが欲しいと思うことがあるかもしれない。
その時に「あの時生体弁を選んでいれば」って思ってしまったら悔しいだろうな。

生体弁にした場合でも、私の場合普通の身体ではないわけですから「自然妊娠」は禁忌です。
準備の段階から大学病院で管理(薬の調整など) する必要がありますが、安全が確保できる環境であればだいたい38~39歳くらいまでは妊娠に耐えられるだろう、という話でした。

うっかり死んでしまうことが無い限り、いつかは必ず機械弁を入れることになる。

これから入れる生体弁が劣化して機械弁に変わる頃が、身体的にも妊娠を諦める頃と重なるのであれば、それまでの期間「可能性」を残しておくのは悪い選択ではないと思いました。

もちろんね、妊娠は心臓弁だけの問題ではないから
・パートナーに出会えないかもしれない
・婦人科系の病気になるかもしれない
・やっぱり心臓がだめかもしれない
・生体弁にしたって合併症になるかもしれない
マイナスの方向の「可能性だって考え始めたらきりがないです。
だから考えないことにしました。
悩むだけ悩んだし。これはもうどっち選んでも「やっぱりあっちがよかったかな…」っていうから。私は。
とにかく後の事は手術を受けてから考えよう。

寿命を延ばすための手術だから。


ちなみに母親は、私の意見を聞く前から生体弁推奨派でした。やっぱり孫の顔見たいのかな?と思ったら
「孫なんてどうでもいい。娘が生きてれば。」
『じゃあ機械弁じゃない?生体弁は絶対再手術が要るよ?リスクがあると思わんの?』
「確かに何回も胸開かせるのはかわいそうやけど、ワーファリンを飲まなあかんでしょ。毎日。それは大変よ。将来的にいつかは機械弁にせなあかんだろうし、だったら何年かだけでもワーファリンの必要が無い生活をしてほしい。それにあんたは音に耐えられんかもしれん。」

私が機械弁に即決できなかったのは妊娠についてと、もう一つはの問題でした。
私は赤ちゃんの頃から特定の音に敏感で、機械弁のカチカチする音が自分の体内から聞こえることに慣れることが出来るか、という不安がありました。



どう考えても私には、毎日ワーファリンを飲むことより、再手術の方が大変だと思う。ワーファリン以外の薬は手術前から毎日飲んでるし。
だけど、母の中には何かこだわりがあるんでしょう。もしかしたら本心は孫が欲しいのかもしれないし、それは分からないけど。

本人にとってそれがいくら大事なことでも、 他の人から見るとたかがそんなことである場合が多いと思うんです。どんな状況においても。
音が気になるなんてたかがそんなことでって言われるかもしれない。
子どもが望めないことも、たかがそんなこと気にしてたのって思ってくれる人もいるかもしれない。

だけどこれは私の身体だから、どうすることが自分にとって1番良いのかは、私にしか分からないから。
これでよかったと思えるように生きていくしかないです。


ということで、1年近くかけて【生体弁】を選びました。というお話でした。
長々と読んでくれてありがとうございます。



※実際に弁置換の手術をされた方にも沢山話を聞きました。
SNSで知り合った方に個別でDMを送らせてもらったり、弁膜症の交流会に行って直接お話を伺ったり。
ほんとに様々でした。資料だけでは分からない、実際に経験して生活をしている人のお話は、弁を選択するうえでの参考としてだけでなく、手術そのものへの励みになりました。ここには書ききれないくらい貴重な体験を話してくださった皆様。この場を借りて改めてありがとうございました

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